僕、高橋(38歳)は、典型的な理系人間のシステムエンジニアだ。物事を論理的に考え、エビデンスを重視する性格。そんな僕が、三十代半ばから進行し始めたAGA(男性型脱毛症)に対して、最初に選択したのは、もちろん医学的根拠の最も確かな内服薬治療だった。フィナステリドとミノキシジル外用薬。その効果は確かで、抜け毛は減り、現状維持はできていた。しかし、僕の心の中には、常に小さな不安が燻っていた。それは、薬の副作用に対する、理論的な、しかし拭い去れない懸念だった。特に、ホルモンに作用するフィナステリドを、この先何十年も飲み続けることへの漠然とした抵抗感。そして、ミノキシジルの血管への作用。僕は、自分の体の中で何が起きているのかを、完全にコントロールできない感覚が、どうにも気持ち悪かったのだ。そんな時、海外の技術系ニュースサイトで偶然目にしたのが、「Low-Level Laser Therapy for Hair Regrowth」という記事だった。光エネルギーが、細胞のミトコンドリアを活性化させ、ATP産生を促す。そのメカニズムは、僕の理系の心を強く揺さぶった。薬物という化学的な介入ではなく、物理的なエネルギーによって、細胞本来の機能を呼び覚ます。なんとクリーンで、エレガントなアプローチだろうか。僕は夢中で、関連する論文や、FDAの承認に関する資料を読み漁った。そこには、プラセボ対照二重盲検試験といった、僕が信頼するに足る、科学的なデータが並んでいた。僕は、主治医に相談の上、既存の薬物治療に、家庭用のヘルメット型レーザー治療器を「併用」することを決意した。毎晩、お風呂上がりに25分間、ヘルメットをかぶってコードを書く。それは、僕にとって、新しいガジェットを手に入れた時のような、少しワクワクする習慣になった。半年が過ぎた頃、僕は明らかな変化を感じた。髪全体のハリとコシが増し、一本一本が力強くなったのだ。これがレーザーだけの効果か、薬との相乗効果かは分からない。でも、僕にとって重要なのは、自分が納得できる、安全だと信じられる方法で、前向きに治療に取り組めているという事実だった。