薄毛や抜け毛の悩みで医療機関を受診される方は少なくありませんが、その原因を特定する上で、血液検査による鉄分の評価は非常に重要な項目の一つです。髪の毛は、毛母細胞が分裂・増殖することで成長しますが、このプロセスには十分な栄養と酸素が不可欠です。鉄分は、血液中で酸素を運搬するヘモグロビンの主要な構成要素であるため、鉄分が不足すると毛母細胞への酸素供給が滞り、髪の成長が妨げられ、結果として薄毛や抜け毛を引き起こす可能性があります。特に注目すべきは「フェリチン」という貯蔵鉄の値です。一般的な健康診断ではヘモグロビン値のみを測定することが多いですが、ヘモグロビン値が正常範囲内であっても、体内の鉄のストックであるフェリチン値が低い「潜在性鉄欠乏」の状態にある方は意外と多く、これが髪のトラブルに繋がっているケースが見受けられます。潜在性鉄欠乏の状態では、自覚症状として疲労感や倦怠感、頭痛、集中力の低下などが現れることもありますが、髪の毛が細くなる、ツヤがなくなる、抜け毛が増えるといった症状が先行することもあります。したがって、薄毛の悩みがある場合には、皮膚科や内科でフェリチン値を含めた血液検査を受け、ご自身の鉄分の状態を正確に把握することが推奨されます。もし鉄分不足が確認された場合は、食事療法や、必要に応じて鉄剤の処方による治療が行われます。ただし、自己判断での鉄分サプリメントの過剰摂取は、胃腸障害や鉄過剰症といった副作用のリスクもあるため、必ず医師の指導のもとで適切に行うことが大切です。髪の健康は体全体の健康と密接に関連しています。薄毛のサインを見逃さず、専門家のアドバイスを受けながら、根本的な原因にアプローチしていくことが重要です。